動物iPS細胞って?
ヒトの iPS 細胞というのは聞いたことがあるかもしれません。iPS 細胞は、細胞を培養して人工的に作られた多能性幹細胞のことで、2006 年 8 月に京都大学の山中伸弥教授らにより世界で初めて iPS 細胞が作製されました。人工多能性幹細胞は、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限 に増殖する能力をもち、英語で「induced Pluripotent Stem cell」と記載されるため、iPS 細胞と呼ばれます。この画期的な功績により 2012 年にノーベル医学・生理学賞を受賞し、現在ではiPS細胞を使って数多くの再生医療技術の開発が国内外で進められているのです。 それではそもそもなぜ iPS 細胞が画期的なのかについてですが、実はヒトの全ての細胞はたった ひとつの受精卵に由来しているため、全ての細胞が同じゲノ ム(遺伝情報)を持っているのです。
ただし、皮膚や目、髪の毛、血液などにあるそれぞれの細胞毎に、必要な遺伝子以外は働かないようにプログラムされています。細胞は日々新しい細胞を生み出し入れ替わっているのですが、基本的にはプログラムは変わらないので、皮膚の細胞が新しくなっても皮膚の細胞であり、他の体の部分の細胞にならないようになっているのです。そしてこのプログラムの「初期化」 (リプログラミング)を、倫理的な観点からも安全にかつ比較的簡単に可能にしたのが iPS 細胞なのです。
さて、ここからが動物の再生医療の話です。 イヌなどの動物では、マウスやラット、ヒトに比べて iPS 細胞を作ることが難しい(多能性誘導耐性と呼んでいます)とされています。 iPS 細胞誘導にはリプログラミング因子というものを使いますが、この因子が少しでも残っていると、腫瘍形成や細胞分化での異常が起こるとされているのですが、そのリプログラミング因子が完全に消失した iPS 細胞の樹立が非常に困難だったのです。そうした状況の中ついに 2021 年、日本大学生物資源科学部 獣医学科 獣医外科学研究室 枝村一弥教授と、久留米大学医学部塩澤誠司准教授および慶應義塾大学医学部生理学教室 岡野栄之教授は、共同研究によって課題を克服し、 臨床応用に適した iPS 細胞を作製する独自技術を完成させたのです。この技術で作製された iPS 細胞は、リプログラミング因子が完全に消失している事が解析によって明らかとなり、動物のさまざまな病気を治すためにiPS細胞を使う上で基盤となる重要な技術である事がわかりました。この技術を用いて、Vetanic は枝村一弥教授や塩澤誠司准教授、そしてその他にも頼もしい仲間と共に、iPS 細胞由来イヌ間葉系幹細胞(MSC)をはじめとした多様な再生医療等製品の研究開発を推進、農林水産省に薬機法に基づく動物用再生医療等製品として製造販売承認申請し、動物の病気を治すために実用化を目指しているのです。
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iPS細胞とは
iPS 細胞とは、細胞を培養して人工的に作られた多能性の幹細胞のこと。 2006年 8 月に京都大学の山中伸弥教授ら は世界で初めて iPS 細胞の作製に成功し、2012 年にノーベ ル医学・生理学賞を受賞。山中教授らは、皮膚など に分化した細胞にある遺伝子を組み込むことで、あらゆる生体組織に成長できる能力を持った細胞を作ることに成功した。これは、成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化する、つまり細胞の時間を巻き戻すような画期的な発見であり、 今後の再生医療や創薬研究に役立つことが期待されている。
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ES 細胞とは
動物の血液,神経,肝臓,膵臓といった動物の体を構成する細胞を作り出すことができる細胞のこと。Embryonic Stem cell(胚性幹細胞)の略。卵子が受精して分裂を始めたばかりの初期の胚から取り出した細胞を培養して得られる。動物の体を作るすべての細胞に分化する能力を持っており,無限に増殖させられることから,再生医療に応用できると注目されている。ただし、 受精卵を採取したり体外受精で作るために卵子や精子を取り出す必要がある。日本国内では現在,国立成育医療研究センターと京都大学が ヒト ES 細胞の作成を認められている。
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間葉系幹細胞(MSC)
とはMSCは体にもともと備わっている幹細胞(体性幹細胞)の一つで、自己複製能と他の細胞への分化能を持つ細胞である。iPS 細胞に比べると分化できる細胞のタイプが限られているが、骨、軟骨、脂肪など、様々な細胞に分化するとができ、栄養因子を分泌したり抗炎症作用を持つとされることから、再生医療への応用が注目されている。既にヒトにおいて承認済みの MSC製剤も 販売されており、疾患治療の実績が積み上げられつつある。 現在臨床的には脂肪や骨髄、末梢血などから採取・増殖したMSC が用いられている。